日本語教師としての経験から・・・・

 今日は、日本語教師である「かざぐるま」の保護者Wの経験を元に、少し書きます。(別の見方もありますので、あくまでも1個人の意見です。)
.......................
1.大人になってから日本語をはじめても十分に間に合う。

 毎年12月最初の日曜日に全世界で一斉に「日本語能力試験」が行なわれています。この試験は1〜4級まであります。漢字の数だけで言うと、4級は100、3級は300、2級は1000(教育漢字)、1級は2000(常用漢字)が試験範囲になります。この試験はハンガリーでも行なわれていますが、高校生や大人になって日本語に興味を持ち勉強を始めた人でも数年の勉強で1級レベルに達する人は少なくありません。
 数年前、Wが当時教えていた高校に日本から高校生が留学してきました。それでWは試しにこの高校生に日本語能力試験1級をやらせてみました。日本語能力試験は2〜4級は60%で、1級は70%で合格になります。しかしこの高校生は合格点に達しませんでした。それで2級もやらせましたが満点はとれませんでした。またある年、Wはハンガリー人数名を日本にホームステイさせました。そして日本の高校を表敬訪問しました。その時対応にあたってくれた校長先生が「高校生に日本語能力試験1級をやらせたところ、大体の傾向として偏差値50あれば合格することがわかった」と言っていました。
 要するに、外国人でも母語母語による知識がしっかりしていれば、日本の高校生レベルの日本語を身につけることはそれほど困難ではないということです。もちろんある程度の年齢から日本語学習を始めるわけですから、ところどころ文法に癖があったり、発音がおもしろかったりしますが、それは「ハンガリー弁」だと思えばいいことです。(日本人も実は、出身地の方言に引っ張られた標準語を話していて、発音や文法が間違っていることが多くあります。)
 要するに「日本語を勉強したい」と思う気持ちがあって、日本語を勉強する意味や大切さを自分なりに自覚していれば(一般的な大切さではなく、「好き」でもいいです。)大人になってからでも日本語学習はそれほど難しくはありません。


2.日本語を使う環境を与えることを意識する。

 Wが教えるクラスには、日本とハンガリーの2重国籍を持った生徒や学生が入ってくることもあります。2重国籍を持った学生のほとんどは「日本語がものすごくよくできる」と「全くできない。できたとしてもクラスの中では全く目立たない。」の2つに別れ、その中間はめったにありません。そしてその2つを分けるポイントは「子供が家庭やその他で日本語を使って話しているか」のみのようです。要するに「日本人の親と同居しておらず、ハンガリー人の親とはハンガリー語しかはなさない。」や「日本人の親とは同居しているが、お互いにハンガリー語でやりとりする」場合はもちろんですが、「日本人の親は日本語で話しかけるが、子供はそれにハンガリー語でこたえる。」家庭で育った子もやっぱり日本語はあまりできません。

 現在はモチベーションの研究も進み、世の中にはおもしろい教材だとか学習方法などがたくさんあります。でもそれはあまり重要ではありません(ダイエットがいい例です。)人は環境で動きます。その人の能力が発揮されるかどうかも、やるかやらないかも殆どはまわりの環境で決まります。(職場なんかその典型ですよね。あと、例えば夫婦のどちらも車の免許を持っていても、夫婦一緒のときはだいたい一方が運転する・・などもそれにあたるかもしれません。)子どもも馬鹿じゃないですから、どの場面で何をすればいいか、よく知っています。ですから、機会は少なくとも例えばお子さんがハンガリー語で話しかけてきたとき「知らん振りをする。」とか「え?」と言うなどして、子供が「お父さん、お母さんとは日本語で話さなきゃ駄目なんだ」と思わせ、使わせることが大切です。
 注意しなければならないのは、ルールはシンプルにということです。日によって、場面によって、疲労度によって、コロコロ使用言語が変わると子供は混乱します。そして「なんでハンガリー語わかるのに日本語使わなければならないんだ・・・」となります。「日本人のお父さんやお母さんとは日本語で話す。」というルールがあるなら、まずはそのシンプルなルールをお父さんがお母さん自身が守らなければいけません。そして事情があって、それが守れないときは、子供に説明する必要があるでしょう。すべては親の責任です。
 もちろん、日本人の親と同居していない場合もあるでしょう。毎日忙しくて子供と接する時間が非常に短いこともあるでしょう。そんなときすべてを家庭の中で(家族で)解決しようと思う必要はありません。そんなときのために、2重国籍の会があり、ベビーの会があり、幼児サークルがあり、補習校があり、そして「かざぐるま」があるのです。まずは親が自分で責任を持つことが前提ですが、その上で周りの環境を利用し、お子さんが日本語を使う環境を確保する・・・そういう姿勢が必要だと思います。(利用するだけ利用して相手に何も還元しない、何も考えない、ただ流れに乗るだけ・・そんな姿勢を持っていると、いつしか利用できるものもできなくなってきます。あたりまえのことですが・・・)